矯正で遠心移動という言葉を聞いたことがありませんか。治療における遠心移動の仕組みや、遠心移動と関連の深い抜歯のメリット・デメリットも詳しくご紹介いたします。
歯列矯正の遠心移動って何?
矯正治療は不正咬合を起こしている歯並びに装置を付け、歯を正しい位置へ動かして歯並びの見た目や歯の機能を改善するための治療です。前歯の重なりが見られる歯並びのケースは、綺麗に並べるスペースを作るため遠心移動を選択することがあります。
遠心移動とは、歯を奥歯側(遠心)に移動させるという専門用語です。奥歯への方向を遠心(えんしん・distal)前歯への方向を近心(きんしん・mesial)と呼び、歯の位置を表しています。
遠心移動で作れるスペースは何ミリ?
遠心移動は顎の骨がある部分にしか行えず、難易度も上がる歯の動かし方です。歯を動かして得られるスペースの最大値は、個人差はありますが片側2mm、両側で4mm程度です。親知らずがある場合は、抜歯処置を行った後に遠心移動を行います。親知らずの抜歯については下記をご参照ください。
遠心移動で注意すべきポイント
遠心移動の注意点として、歯をまとめて後方へと動かすことは出来ません。一番奥の歯が遠心へ移動したのを確認した後、その手前の歯を遠心へ動かして徐々にスペースを作るという流れになります。歯は1ヶ月に最大1mm動かせるかというスピードでしか動きません。何本も動かしてスペースを作る場合、遠心移動でかなりの時間がかかります。
遠心移動が得意な矯正の装置は?
遠心移動(歯を後ろに移動させること)に効果的な矯正装置はいくつかあります。それぞれの装置には、異なる特徴と利点があり、患者さんの状態に適切なものが選ばれます。以
1. ヘッドギア
ヘッドギアは、上顎の奥歯を遠心移動させるために使われる古典的な装置です。外部から力を加えるため、強力な遠心力を歯にかけることができ、特に重度の出っ歯や過剰な上顎突出を治療する際に有効です。ただし、外観が目立つため、装着時間や患者の協力度が必要です。
2. ミニインプラント(アンカースクリュー)
ミニインプラント(アンカースクリュー)は、口腔内の骨に小さなチタン製のスクリューを埋め込むことで固定源とします。これにより、他の歯を支点として使用する必要がなくなり、より効果的かつ精密な歯の移動が可能です。ミニインプラントは、外部装置を使いたくない場合や、より短期間での治療を希望する患者に適しています。
3. ペンデュラム装置
ペンデュラム装置は、上顎の奥歯を遠心移動させるための内部装置です。主に上顎の第一・第二大臼歯を後方に移動させるために使用されます。患者が協力的でなくても効果的に動かせるため、特に子供や若年層に適しています。外から見えない点もメリットです。
4. マウスピース矯正(インビザライン)
マウスピース矯正(インビザライン)は、透明なアライナーを使って歯を移動させる装置です。軽度から中程度の遠心移動には対応できる場合があり、特に軽度の出っ歯や前歯の改善に使用されます。外観に配慮する患者にとっては人気のある選択肢ですが、他の装置ほど強力な遠心力をかけられないこともあります。
インビザラインが得意とする治療・苦手な治療
得意な治療
インビザラインは半透明で見えにくいマウスピースを歯列に装着し、矯正力をかけて歯を動かす治療です。マルチブラケット矯正(ワイヤー矯正)が奥歯を固定源に前方から後方へ歯を引っ張ることが得意なのに対して、インビザライン矯正は全体の歯並びを水平に奥へと動かすことが得意です。つまり、歯を遠心移動させたいならばインビザライン矯正が向いています。
苦手な治療
一方でインビザライン矯正は奥歯が沈んでしまっているケースには不向きです。元々そのような状態の方には、ワイヤー矯正をおすすめします。ワイヤー矯正は、沈んだ歯を引っ張り上げたりする治療に向いています。インビザライン矯正を希望される方には、状態にもよりますがボタンを付けて歯を引っ張り上げる処置を行い、噛み合わせを良くします。
遠心移動以外でスペースを作るメリット・デメリット
歯を抜かずに動かす遠心移動を希望されても、患者さんの状態によっては、遠心移動のみでは動かすスペースが出来ない場合があります。その場合、下記の処置のうちいずれかを選択してスペースを作る必要があります。
IPR(ディスキング・スライス矯正)
- Inter Proximal enamel Reductionの略称
- 歯のエナメル質を痛みが出ない程度まで両側を削りスペースを作る処置
- 痛みが出た場合は神経治療が必要
側方拡大
- 歯列弓を横へ広げてスペースを作る処置
- 子供の場合は取り外し式のマウスピース、大人の場合は固定式の装置を使用
- 成長期の子供の顎は広げやすいが、大人の顎は骨も固まっているため広がりにくい
小臼歯の抜歯
- 犬歯の後ろにある小臼歯を抜いてスペースを作る処置
- 歯を抜くことでスペースは確保できるが、歯の健康寿命という点で疑問が起こる
矯正の遠心移動に関するQ&A
矯正治療における遠心移動とは、歯並びを改善するために、歯を奥歯側(遠心)に移動させる治療法です。これは、歯並びのスペースを作り、不正咬合を正す目的で行われます。遠心移動は特に前歯が重なり合うケースに有効であり、顎の骨の範囲内で行われます。この手法で得られるスペースの最大値は、個人差がありますが片側2mm、両側で4mm程度です。また、親知らずが存在する場合には、遠心移動の前に抜歯が必要となる場合があります。
遠心移動の利点は、抜歯をせずに歯のスペースを作り、歯並びを整えることができる点です。しかし、この手法には制約もあります。まず、遠心移動は顎の骨の範囲内でのみ行え、その範囲を超えたスペースの確保は困難です。また、歯は1ヶ月に最大1mm程度しか動かないため、複数の歯を動かすにはかなりの時間がかかります。さらに、奥歯から順に1本ずつ後方に動かす必要があるため、治療期間が長くなる傾向があります。
遠心移動に適した矯正装置として、マウスピース型矯正装置のインビザラインが挙げられます。インビザラインは透明で目立ちにくいマウスピースを歯列に装着し、矯正力をかけて歯を動かします。この装置は全体の歯並びを水平に後方へ動かすことに長けており、遠心移動には向いています。ただし、奥歯が沈んでいるケースには不向きであり、その場合にはワイヤー矯正や補助的な処置が必要です。
まとめ
矯正で遠心移動をする場合は、非抜歯で綺麗な歯並びへ改善するというメリットがあります。但し、抜歯処置やIPRで行う矯正と異なり、治療期間が長くかかるデメリットや、患者さんの状態によっては出来ない場合があります。しっかりと担当医とご相談のうえ、矯正治療をスタートさせましょう。