金属アレルギーを持つ方々にとって、長期に渡ってお口の中に装着する矯正装置は、アレルギーを起こさない材料で作られていることが重要です。アレルギー反応を避けるための矯正材料の選択肢、アレルギーテストの重要性、そして治療過程での注意点などについてご説明します。
金属アレルギーとは?
金属アレルギーとは、金属イオンが皮膚に触れた際に起こるアレルギー反応のことです。主にニッケルやクロムなどの金属が原因で、かゆみや発疹などの症状が現れます。歯列矯正治療においても、これらの金属を含む装置を使用することでアレルギー反応が引き起こされる可能性があります。
金属アレルギーと歯列矯正の関係
金属アレルギーは、特定の金属に対して免疫系が過敏に反応することであり、金属と接触した部分に炎症や皮膚トラブルが生じます。このようなアレルギー反応は、主にニッケル、クロム、コバルトなどの金属によって引き起こされます。これらの金属は歯列矯正治療において使用される材料にも含まれていることが多く、特にニッケルは伝統的なブラケットやワイヤーに広く用いられています。
歯列矯正の材料によって起こる金属アレルギーの問題
歯列矯正治療では、金属製のブラケットやワイヤーを2~3年の長期にわたって歯に装着するため、金属アレルギーを持つ患者さんにとってはリスクがあります。アレルギー反応が起こると、口腔内でかゆみ、腫れ、発疹、痛みを伴う潰瘍などの症状が現れることがあります。これらの反応は、治療の進み具合を遅らせ、患者さんの快適性や治療の効果の低下に繋がります。
アレルギーの方でも安心な矯正装置
金属アレルギーの患者さん向けに、非金属製の材料を使用した矯正装置がいくつか開発されています。これらの選択肢は、アレルギー反応を引き起こす可能性を大幅に低減させることができます。
1. 透明なマウスピース型矯正器具(例:インビザライン)
マウスピース矯正は、透明な樹脂で出来たマウスピースを使用しますので、金属の使用は一切ありません。マウスピース矯正は金属アレルギーの心配がなく、目立たないのが特徴です。食事と歯磨きの時にはマウスピースを外して行うことが出来ますが、インビザラインの場合は1日22時間の以上の装着を守らねばなりません。
2. セラミックブラケット
セラミック製のブラケットは、その見た目の自然さと金属を使用していないためのアレルギーリスクの低さから人気があります。ただし、金属製に比べて壊れやすいという欠点があります。更に、ブラケットに金属のワイヤーを通して歯に矯正力をかけますので、ワイヤーによって金属アレルギーが起こるリスクが残されています。
金属アレルギーへの対策と検討すべき点
金属アレルギーを持つ患者さんが歯列矯正治療を受ける場合、以下の点を検討することが重要です。
1. アレルギーテスト
可能であれば、治療前にアレルギーテストを行い、どの金属にアレルギー反応が出るかを特定します。
金属アレルギーのアレルギーテストは、特定の金属に対する過敏反応を調べるためのテストです。金属アレルギーは接触性皮膚炎を引き起こすことが多く、ニッケル、クロム、コバルトなどが一般的なアレルゲンとして知られています。歯列矯正では、お口の中に着ける装置にこれらの金属が使用されることがあり、アレルギー反応を避けるためには事前のテストが有効です。
アレルギーテストの種類
金属アレルギーを調べるためには、主に「パッチテスト」と呼ばれる方法が用いられます。
パッチテスト
・パッチテストの方法
パッチテストでは、アレルゲンとされる金属を含む小さなパッチを皮膚(通常は背中)に貼り付け、一定期間(通常は48時間から72時間)そのままにしておきます。その後、パッチを取り外し、皮膚の反応を観察します。
・評価方法
テスト箇所に赤み、腫れ、かゆみ、水ぶくれなどの反応が現れた場合、その金属に対するアレルギー反応があると判断されます。
・パッチテストのメリット
パッチテストは非侵襲的で比較的簡単に行えるため、金属アレルギーの診断に広く用いられています。
・パッチテストのデメリット
全ての金属アレルギーがパッチテストで検出できるわけではないため、テスト結果が陰性でもアレルギー反応が出ることがあります。
2. 矯正治療の前にアレルギーテストを受けた方が良い人
金属製の医療器具や装置を使用予定の人
歯列矯正治療を受ける予定の人や、人工関節置換術など金属製の医療器具を体内に埋め込む手術を控えている人は、アレルギーテストを受けることが推奨されます。
過去に金属に対するアレルギー反応があった人
ジュエリーや時計など金属製品との接触で皮膚トラブルが起きた経験がある人は、アレルギーの可能性があるためテストを検討すべきです。
3. アレルギーテストの重要性
金属アレルギーのアレルギーテストは、予期せぬアレルギー反応を避けるために行います。特に、矯正治療のような医療処置のために長期間に渡って金属と接触する可能性がある場合、事前にアレルギーの有無を確認しておくことで、治療方法(使用する装置など)を適切に調整し、患者の安全を確保することができます。また、アレルギー反応が疑われる場合には、事前にアレルギーを起こさない材料を使用するなどの対応策が可能となります。
4. 装置の材料の選択
アレルギー反応のリスクを軽減するために、非金属製の材料で出来たブラケットやアレルギー反応の少ない金属製のブラケットの使用を検討します。
5. 定期的な調整
治療中は定期的に調整を行い、アレルギー反応の兆候が見られた場合には直ぐに装置を外すなどの対処を行います。
金属アレルギーを持つ患者さんにとって、歯列矯正で使用する装置には特別な配慮が必要ですが、適切な材料の選択によって、アレルギーを起こさずに治療することが可能になります。
金属アレルギーの方向けの矯正装置の選択肢
金属アレルギーの方に向けた矯正治療のための装置には、以下のようなものがあります。
セラミックブラケット
金属を使用しないため、アレルギー反応の心配が少ない。見た目も自然で目立ちにくい。但し金属のワイヤーを使用するため、アレルギーのリスクが全くないわけではない。
プラスチックブラケット
セラミック同様、金属フリーでアレルギー反応を起こしにくい。しかし、耐久性や摩耗性に難がある場合がある。但し金属のワイヤーを使用するため、アレルギーのリスクが全くないわけではない。
リンガルブラケット
歯の裏側に装着するため、見た目を気にすることなく治療が可能。当院ではインコグニトと呼ばれるオーダーメイドの装置の使用が可能。インコグニトは金属アレルギーを起こしにくい金合金を使用するため、アレルギーのリスクが低い。但し金属のワイヤーを使用するため、アレルギーのリスクが全くないわけではない。
インビザライン(透明なマウスピース)
金属を一切使用しない透明なマウスピースで歯を動かす。取り外し可能で、見た目にも影響が少ない。金属アレルギーの方にとっては最も安全な矯正装置。
金属アレルギー患者さんが矯正治療を行う際の注意点
金属アレルギーの方が矯正治療を受ける際は、以下の点に注意が必要です。
- 事前にアレルギーテストを実施し、アレルギー反応の起こる金属を特定する。
- 矯正器具の材質を確認し、アレルギー反応のリスクの低い素材を選ぶ。
- 定期的な調整の際に、アレルギー反応の有無をチェックする。
まとめ
金属アレルギーを持つ方でも、アレルギーを起こしにくい材質の選択と適切な管理により、安全に歯列矯正治療を受けることが出来ます。近年、アレルギー体質の方が増えており、矯正装置もよりアレルギーを起こしにくい材料へと改良が加えられた新商品が開発されています。アレルギーのある方は、担当医とよく相談して矯正装置を選択しましょう。