矯正治療は、歯並びの改善や噛み合わせの矯正などに用いられる方法ですが、その中でも部分矯正は、特に前歯の軽度な歯並びの乱れが手軽に治療出来ます。
しかし、部分矯正では軽度の不正咬合しか治すことが出来ませんので、部分矯正で治る範囲と治らない範囲、部分矯正の注意点などについてご説明します。
目次
部分矯正とは?
部分矯正とは、歯全体ではなく、一部の歯並びの問題を解決するために行う矯正治療のことを指します。通常の全体矯正と異なり、限られた範囲の歯に対して行われるため、治療期間が短く、費用も抑えられるのが特徴です。。
部分矯正の特徴
部分矯正では、前歯や一部の歯に焦点を当てて歯並びを改善します。特に審美的な問題を解決するために行われることが多く、以下のような特徴があります。
- 治療範囲が限定的・・上下の前歯や一部の歯の動きに集中するため、全体的な噛み合わせの調整を必要としない場合に適しています。
- 治療期間が短い・・治療範囲が限られているため、通常の矯正治療よりも短い期間(6ヶ月から1年程度)で終了することが多いです。
- 費用が比較的安価・・全体矯正に比べて治療範囲が狭いため、費用を抑えられることが多いです。
部分矯正で治る不正咬合の例
部分矯正は、主に前歯の気になる部分だけに限定した治療を行います。
- 軽度の歯並びの乱れ
- 軽い出っ歯や受け口
- 軽度のすきっ歯
- 前歯1本だけの捻じれ
1. 軽度の歯並びの乱れ
前歯がわずかにガタガタしている場合、部分矯正は有効です。歯の位置を微調整することで、歯並びの改善が期待できます。
2. 軽い出っ歯や受け口
軽い出っ歯や受け口の場合、部分矯正で前歯を後ろに下げたり、逆に前に出したりすることが可能です。
3. 軽度のすきっ歯
隙間があまり大きくない軽度のすきっ歯の場合は、部分矯正で隙間を閉じることが出来ます。すきっ歯の治療は、歯を移動させて隙間を詰めていきますが、その結果他の部分に隙間が出来てしまうことがあります。
歯と歯の間に隙間があると、食べ物が挟まりやすくなって虫歯や歯周病のリスクが高まるため、前歯の隙間を詰めても、他の部分にあまり隙間が出来ないと診断された場合のみ、部分矯正での治療が可能です。
4. 前歯1本だけの捻れ
前歯1本だけが捻じれていたり、歯並びから飛び出してしまっている場合も、比較的軽度であれば部分矯正の適用となります。
歯を動かすためのスペース作りのためのIPR(スライス・ディスキング)技術
軽度の歯並びの乱れに対して、IPRといって、前歯のサイドのエナメル質の部分を僅かにスライスする(削る)ことでスペースを作り、歯を並べることができます。スライスで作られるスペースは0.25mm~0.5mmとほんの小さなものですが、この範囲で歯を動かして位置を調整することが可能です。
部分矯正では治らない範囲
部分矯正は、軽度の歯並びの乱れや出っ歯などを治すことが出来ますが、その適用範囲には限界があります。部分矯正で対応が難しいケースについてご説明します。
- 重度の歯並びの乱れ
- 重度の出っ歯や受け口
- 奥歯の問題
- 噛み合わせの問題
- 歯の本数の問題
1. 重度の歯並びの乱れ
歯が大きく重なっていたり、歯列から飛び出ていたりして、歯並びが大きく乱れている場合は、部分矯正では治療ができません。中~重度の不正咬合の場合は、全体矯正や他の治療法が必要です。
重度の歯並びの乱れを治療するためには、歯の位置や角度を大幅に調整するためのスペースが必要であり、部分矯正だけでは大きなスペースを確保することが難しいです。
2. 重度の出っ歯や受け口
重度の出っ歯や受け口の場合は、部分矯正では治療が出来ません。重度の出っ歯では、部分矯正で前歯を後ろに下げるだけでは十分に歯を引っ込めることが出来ません。このような場合、小臼歯を抜いてスペースを作り、全体的に歯を動かす必要があります。
また、受け口の場合も同様に、部分矯正では十分に矯正することが難しく、全体矯正が必要となります。
3. 奥歯の問題
部分矯正は主に前歯に焦点を当てているため、奥歯の問題への対応は難しく、全体矯正になる場合が多いです。
4. 噛み合わせの問題
噛み合わせの不均衡が生じている場合、部分矯正だけでは十分に解消できません。噛み合わせのバランスを整えるためには、全体的な歯の位置調整が必要であり、部分矯正だけでは対応が難しいです。
5. 歯の本数の問題
部分矯正は、歯並びの微調整や軽度の位置修正に適していますが、歯の本数が多すぎる、あるいは少なすぎることが原因で歯並びが乱れている場合には、全体矯正や抜歯矯正などの対応が必要です。
以上のように、部分矯正は軽度の歯並びや、ほんの少しの位置調整に対して有効ですが、中~重度の歯並びの乱れや出っ歯、受け口、噛み合わせの不均衡などには対応できません。これらのケースでは全体矯正や他の治療法が必要となるため、治療の選択にあたっては、歯科医と十分な相談を行うことが大切です。
部分矯正のメリットと注意点
部分矯正には利点も多くありますが、その限界を理解しておくことが重要です。
部分矯正のメリット
部分矯正は全体矯正に比べて費用が抑えられ、治療期間も短くなります。特に軽度の歯並びの乱れや出っ歯に対しては、効果的な治療法です。
1. 前歯など気になる部分だけを治す
部分矯正は、前歯や一部の歯など、一部の気になる部分の歯列の問題だけに焦点を当てて矯正できます。これにより、特定の歯の配置や位置の問題を短時間で修正できます。
2. 治療期間が短い
歯を動かす範囲が狭く、歯を複雑に動かすことがないため、全体的な矯正よりも治療期間が短くなります。一般的には数ヶ月から1年程度で終了することが多いです。
3. 費用が抑えられる
部分矯正は全体的な矯正よりも費用が抑えられることが多いです。これは治療対象の範囲が狭く、2~8本程度の歯だけを動かすためです。
4. 歯の負担が少ない
治療対象の歯が限定されており、大きな水平移動はないため、全体的な矯正に比べて歯にかかる負担が少ないです。
5. 口元の審美的な向上
部分矯正は前歯や目立つ部分の矯正に適しているため、口元が美しくなり、審美的な向上が期待できます。特に前歯の配置や間隔を修正することで、笑顔や口元の見た目の改善につながります。
6. 矯正装置の種類
部分矯正では、透明なアライナーや部分的なブラケットなど、目立ちにくい矯正装置を使用できるため、治療中の見た目に配慮することが可能です。
部分矯正の注意点
部分矯正を受ける上での注意点には以下のような点があげられます。
1. 治療出来る歯の範囲が限られている
部分矯正は主に前歯の気になる部分にのみ焦点を当てて行われ、前歯の2~8本程度を動かす治療法です。そのため、噛み合わせのバランスが悪い方は部分矯正ではなく全体矯正が必要になります。
2. 適用範囲の確認
部分矯正は歯並びが気になるすべての患者さんに適しているわけではありません。特に複雑な不正咬合だったり、全体的な噛み合わせのバランスに問題がある場合は、全体的な矯正が必要となることがあります。
3. 治療効果の限界
部分矯正は特定の問題を解決することを目的としていますが、十分な治療結果が得られない場合や、他の部分の歯列に影響を及ぼすことがあります。
4. 治療後の保定期間
部分矯正が終了した後は、歯が動きやすい状態になっています。そのため、歯の位置を維持するためにリテーナーと呼ばれる保定装置を一定期間使用することが推奨されます。リテーナーの装着によって治療の効果を維持し、歯並びが再度乱れるのを防ぐことができます。
5. 治療中の違和感
矯正治療は装置がお口の中にあるため、治療期間中は食事や会話に影響が出る場合があります。また、初めて装置をつけた後の数日間は、装置による違和感や痛みを感じることがあります。
6. 保険が適用されない
部分矯正は多くの場合、美容目的とみなされますので、基本的に保険が適用されません。そのため、事前に治療の費用や保険の適用範囲を確認することが必要です。
7. 治療期間の個人差
部分矯正の治療期間は不正咬合の程度によって異なります。治療の進行具合や効果も人によって異なるため、医師と定期的に相談しながら治療を進めましょう。
部分矯正に使われる装置
部分矯正には、以下のような矯正装置が使用されます。
- ワイヤー矯正・・ワイヤーとブラケットを使用する方法。特定の歯に焦点を当てて部分的に装置を装着します。
- 裏側矯正・・ワイヤーとブラケットを歯の裏側につける方法。
- マウスピース矯正・・インビザラインなどの透明なマウスピースを使って、目立たずに部分矯正を行うことができます。
【動画】部分矯正で治る範囲・治らない範囲
部分矯正で治る範囲と治らない範囲に関するQ&A
部分矯正は主に前歯の軽度な歯並びの乱れを治すための治療です。わずかにガタガタしている歯の微調整、軽い出っ歯や受け口の矯正、隙間が小さいすきっ歯の治療、または一本だけの捻れた前歯の矯正が可能です。これにより、限定的ながらも顕著な改善が期待できます。
IPR(スライス・ディスキング)技術は、軽度の歯並びの乱れを治療する際に、前歯のサイドのエナメル質を僅かに削ることで、歯を動かすスペースを作る方法です。削る量は0.25mmから0.5mmと非常に小さく、限定的な範囲での歯の移動を可能にします。また、エナメル質には神経がありませんので、痛みはありません。
部分矯正では重度の歯並びの乱れ、重度の出っ歯や受け口、奥歯の問題、噛み合わせのバランスの問題、また歯の本数に関連する問題は治療が難しいです。これらの状態は全体矯正や抜歯矯正などの他の治療法が必要となります。
まとめ
部分矯正は、軽度の歯並びの乱れや出っ歯、受け口に対して効果的な治療法です。ただし、その治療範囲は主に前歯のみで、中~重度の不正咬合や奥歯の問題の治療には全体矯正が必要となります。