インプラント

差し歯とインプラントは何が違うの?

差し歯とインプラントは何が違うの?

万が一歯を失った場合、差し歯インプラントという選択肢がよく挙げられます。しかし、これらの治療法は見た目は似ているものの、治療の過程や構造、費用などに大きな違いがあります。「差し歯」と「インプラント」の違いを分かりやすく解説し、それぞれの特徴や選ぶ際のポイントをご説明します。

差し歯とインプラントとは? 基本的な特徴について

「差し歯」と「インプラント」は、いずれも歯が大きく損傷している場合に行う治療法ですが、それぞれの適用条件や役割に大きな違いがあります。

差し歯の基本的な特徴

セラミッククラウン

差し歯は、歯の根が残っている場合に行う治療法で、残存している歯根の上に「被せ物」を装着します。根管治療が行われた後、歯根の中に金属などで支柱を立て、その上に人工歯を接着します。

歯根が残っている場合に行う

差し歯の治療では、残っている歯根を支えとして人工の歯を装着します。そのため、歯根がしっかりと健康であることが条件となります。歯根が弱っている場合や歯周病が進行している場合には、適用が難しいこともあります。また、歯が抜けてしまった歯根がない場合も差し歯には出来ません。

保険適用の選択肢がある

保険診療内で選べる素材(例えばレジンや金属)があるため、比較的安価に治療を受けられることも差し歯の魅力のひとつです。ただし、前歯の場合は審美性を考慮して自費診療のセラミックを被せる場合が多いです。

メリット

  • 比較的短期間で治療が完了(数週間~1ヶ月ほど)
  • 保険適用の範囲があるため、費用を抑えられる場合も
  • 自分の歯根を利用できるため、骨の吸収リスクが少ない

デメリット

  • 歯根が弱っていると抜歯が必要になる場合がある
  • 神経を取ると歯が脆くなりやすい
  • 長期間の使用で土台が折れることがある

インプラントの基本的な特徴

インプラント

インプラントは、歯根が完全に失われた場合に適用されます。人工歯根としてチタン製のインプラントを顎骨に埋め込み、その上に上部構造(被せ物)を固定することで、自然な見た目と機能を回復します。

人工歯根を埋め込む手術が必要

インプラント治療では、チタン製の人工歯根を顎骨に埋め込み、その上に人工歯を固定します。このプロセスは外科手術を伴うため、健康状態や骨の質によって適用の可否が判断されます。

天然歯に近い見た目と機能

インプラントは、咀嚼力や見た目が天然歯に非常に近いのが特徴です。食事や会話の際に違和感が少なく、自然な生活を取り戻せる点が多くの患者さんに支持されています。

長期的な耐久性

適切なメンテナンスを行うことで、インプラントは20年以上使用できることが期待されます。差し歯と比較して、長期的な投資として選ばれることが多いです。

差し歯とインプラントの適用範囲の違い

差し歯とインプラントの選択肢は、主に歯根の有無で決まります。

差し歯が適用されるケース

  • 虫歯や外傷で歯冠が失われたが、歯根が健康である場合。
  • 被せ物を支える歯根の強度が十分に保たれている場合。

インプラントが適用されるケース

  • 歯根が完全に失われている場合。
  • 入れ歯やブリッジを避けたい場合。
  • 顎骨の状態がインプラントの埋入に耐えられる場合。

メリット

  • 天然の歯に近い噛む力を回復できる
  • 周囲の歯に負担をかけない
  • 長期間使用できる(適切なケアで10年以上)
  • 審美性が高く、自然な見た目

デメリット

  • 手術が必要で治療期間が長い(数ヶ月~1年)
  • 保険適用外のため費用が高額
  • 顎の骨が十分でないと治療が難しい

このように、差し歯とインプラントは、どちらにするか選択するのではなく、それぞれ異なる条件で適用される治療法です。患者さんの口腔状態や希望する治療の仕上がりに応じて、適切な選択をすることが重要です。

差し歯とインプラントの構造の違い

差し歯とインプラントは、その構造が大きく異なります。

差し歯の構造

  • 残存している歯根が支えとなるため、歯根の健康状態が重要です。
  • 主に「土台(支柱)」と「被せ物」の2つで構成されます。

インプラントの構造

  • 歯根の代わりとなる人工歯根、支台装置(アバットメント)、そして被せ物の3つのパーツから成り立ちます。
  • インプラントは骨と結合するため、安定性が非常に高いのが特徴です。
差し歯 インプラント
適応条件 歯根が残っている場合 歯を根元から失った場合
治療法 土台を作り、被せ物を装着 人工歯根を埋入し、人工歯を装着
治療期間 数週間~1ヶ月  数ヶ月~1年
費用 保険適用可能(自費の場合もあり) 自費診療(数十万円程度)
耐久性 5~10年程度 10年以上(適切なケアで20年以上も可)
手術の有無 なし あり(外科手術が必要)
噛む力 天然歯よりやや弱い 天然歯に近い強さ

治療の流れの違い

差し歯とインプラントでは、治療の内容が異なります。

差し歯の場合

  1. 根管治療で歯根内部を清潔にする。
  2. 支柱を設置し、歯型を採取する。
  3. 被せ物を作製し、装着する。

→治療期間は根幹治療から被せ物の装着までで約1ヶ月半~2ヶ月程度で完了します。

インプラントの場合

  1. 顎骨に人工歯根を埋め込む手術を行う。
  2. 骨との結合を待つ(通常3~6ヶ月)。
  3. アバットメントを装着し、その上に被せ物を設置する。

→治療期間は半年から1年以上かかる場合があります。増骨の処置を行った場合は3ヶ月程度プラスされます。

費用と寿命の比較

差し歯とインプラントでは、費用や寿命にも違いがあります。

費用

  • 差し歯はインプラントよりも安価ですが、セラミックやジルコニアのような保険適用外の素材を選ぶと費用が高くなります。
  • インプラントは1本あたり数十万円以上が相場で、保険適用外の場合がほとんどです。

寿命

  • 差し歯の寿命は平均5~10年と言われていますが、歯根の健康状態により変動します。
  • インプラントは20年以上の耐久性が期待され、適切なケアで一生使えることもあります。

どちらを選ぶべきか?

「差し歯」と「インプラント」はどちらも失った歯を補う治療法ですが、選ぶ際には歯の状態、予算、治療期間、希望する耐久性などを考慮する必要があります。それぞれのケースに応じた選び方を詳しく解説します。

差し歯が向いているのはこんな人

歯根が健康に残っている
→ 差し歯は歯根がしっかりしている場合にのみ適応されます。歯根が使えるなら、インプラントよりも手軽に治療が可能です。

手術を避けたい
→ 差し歯は外科手術を伴わないため、手術に抵抗がある方に向いています。インプラントのような手術後の腫れや痛みを心配する必要がありません。

短期間で治療を終えたい
→ 差し歯の治療期間は通常数週間~1ヶ月程度。インプラントは数ヶ月~1年かかるため、早く治療を終えたい方には差し歯が適しています。

費用を抑えたい
→ 保険適用の範囲で治療が可能な場合があり、費用が比較的安価です。ただし、保険適用外の素材(セラミックなど)を選ぶと自費になり、高額になることも。

 長期間の耐久性は求めない
→ 差し歯の耐久年数は5~10年程度。インプラントのように長く持つわけではないため、数年ごとに交換が必要になることがあります。

インプラントが向いているのはこんな人

歯を根元から失っている
→ インプラントは歯根が残っていない場合の第一選択肢です。ブリッジのように周りの歯に負担をかけず、単独で治療できる点がメリット。

しっかり噛みたい
→ インプラントは天然の歯と同じくらいの咀嚼力を持つため、しっかり噛める歯を求める人に適しています。

周囲の歯に負担をかけたくない
→ 差し歯やブリッジは他の歯に負担がかかる場合がありますが、インプラントは独立した歯なので周囲の歯を削る必要がなく、負担も少ないです。

耐久性を重視したい
→ 適切なケアをすれば10年以上、場合によっては20年以上も持つため、長期的に歯の健康を維持したい方におすすめです。

費用が高くても構わない
→ インプラントは基本的に自費診療で、1本あたり30万円~50万円程度かかります。そのため、治療費を負担できる人向けの選択肢となります。

 時間をかけてもよい
→ 治療完了まで数ヶ月~1年程度かかることもありますが、時間をかけてでもしっかりした歯を手に入れたい方には最適です。

まとめ

「差し歯」と「インプラント」は、歯を補う治療法として有用ですが、それぞれに異なるメリットとデメリットがあります。差し歯は比較的短期間で治療が完了し、比較的費用が抑えられる一方で、歯根が健康であることが前提です。一方、インプラントは天然歯に近い機能と長もちするのが魅力ですが、費用が高く治療期間も長くかかります。

大切なのは、患者さんの口腔状態やライフスタイル、予算に合わせて最適な治療法を選ぶことです。適切なケアと定期的な健診を行うことで、どちらの治療法も長く快適に使用することができます。

この記事の監修者

医療法人真摯会
西宮クローバー歯科・矯正歯科 院長
廣石 勝也
朝日大学歯学部卒業。大阪歯科大学総合診療科臨床研修終了。国際口腔インプラント学会会員。

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